写真・川上信也/文・嶋田絵里

 長崎県壱岐の鬼凧(おんだこ)は、百合若伝説という鬼退治の話を図柄に描いている。目を見開き、武者・百合若大臣の兜(かぶと)に喰らいついているのが鬼だ。子どもの節句や新築祝いなどに魔除けとして贈られ、家に飾ったり凧揚げして、その吉祥を願う。
 壱岐にはかつて鬼凧をつくる家は三軒あったが、いまでは一軒しか残っていない。それが、鬼凧工房平尾(壱岐市芦辺町箱崎本村触536)だ。現在、斉藤あゆみさんと祖母の平尾フクヨさんで鬼凧づくりを切り盛りしている。
 「祖父母が鬼凧をつくり始めたころは、他にまだつくっている家がありました。私の両親は共働きだったので、小学生のころから学校が終わるとまず祖父母の家に寄ってから遊びに行っていましたし、夏休みも冬休みも祖父母の家で過ごしていました。だから、二人が朝早くから夜遅くまで凧づくりをしているのを見ていて、手伝ったりもしていました」
 斉藤さんは、高校を卒業すると福岡に進学し就職した。壱岐に戻ったのは、令和元年(2019年)に祖父平尾明丈(ひらお みょうじょう)さんが亡くなったときだった。
 「祖父が大事にしていた凧づくりを続けたいと思いました。それで福岡から壱岐に戻り、祖母に教わりながら一から凧づくりを始めました」
 凧の主な材料は、竹ひご、和紙、食紅・墨汁、凧糸。竹ひごは裏山にある竹を伐り出してつくっている。食紅で描く鬼と百合若大臣は、空に揚がり日光を浴びるとやや透けてより美しく見えると言う。古くは、竹の弓に鯨のひげやフグの皮などを張っていた。その弓弦が風を受けてブンブンと「うなり」音を鳴らす。大きなサイズになると、凧に体が持っていかれるほどだそう。そのため凧揚げをする人は革の手袋をするらしい(軍手だと摩擦で手が火傷するとのこと)。
 「壱岐では、子どもの初節句には、親戚が集まりお祝いをします。そこで、鬼凧が贈られることが多いです。甥っ子にあげるからと注文が入ります」
 横穴式石室(全長16.5m)をもつ「鬼の窟(いわや)古墳」、鬼が踏んでできたと言われる巨大な洞穴「鬼の足跡」、鬼が投げたという巨石「太郎礫(つぶて)次郎礫」など、さまざまな鬼にまつわる史跡があり鬼ヶ島とも言われた、玄界灘に浮かぶ島・壱岐。その豊かな鬼伝説と海上交流の歴史を示唆するような鬼凧である。
「壱岐の空に揚がる鬼凧」鬼凧工房 平尾・斉藤あゆみさん

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